クリニックレター
2024.05.01
クリニックレターvol.90 「足のむくみはなぜ起こる?」
皆さん、こんにちは。今回のテーマは足のむくみについてです。外来でも訴えが非常に多く、原因が様々な病態です。今回は、むくみが起こるメカニズムを中心に、原因や対応についての記事です。今回は、長文になりますが、お付き合いください。
むくみの起こるメカニズム
まず、むくみを理解するには、体の中にある「水」について理解をしておく必要があります。私たちの体の中の約6割は水でできています。例えば体重が50kgの方であれば、約30L(30kg分)もの水が体の中にあるということになります。500mlのペットボトルでいうと60本分であり、体のどこにそんな水があるようには思えないかもしれませんが、実は体の一個一個の細胞も水を溜め込んでいます。
上記の30Lの体における水の割合は、細胞の中が20L、血管の中が2.5L、それらの外に7.5Lという程度の割合で分布しており、常にこのバランスが維持されています。しかし、このバランスが崩れて血管及び細胞の外に水が増えてしまった場合に「むくみ」となって現れます。
このバランスが崩れて水が外側に漏れ出る仕組みの一つは、水自体が持つ圧力の変化です。血管は血液が流れる水道管であり、この水道管の中を血液という水が流れています。この血管(静脈)の壁には無数の窓がついており、血管内の圧の変化で水が簡単に血管外に漏れ出てしまう構造になっています。これがむくみの起こる原因です。
また、血液の中には、塩に含まれるナトリウムやタンパク質が含まれており、血管の中を流れるナトリウムやタンパク質には、水を引き込む力があります。例えば、それらが減ってしまった場所では、水を引き込む力が失われ、水は血管内から血管外に逃げていってしまいます。こんな風に、水はナトリウムやタンパク質の動きとも連動してむくみの原因となります。
また、座りっぱなしの状態や寝たきりの方は、足のむくみが多いです。先に述べた圧やたんぱく、ナトリウムの影響もありますが、座った姿勢で足を低い位置に保ち続けていることに原因があります。重力の影響で水は体の下に位置する足の方向に移動しやすくなり、血管の圧が高まります。すると、血管の外に水が溢れていくのです。普通は、足を動かすと、筋肉が伸び縮みします。この足の筋肉の伸び縮みは、実は血管にとってポンプの役割を果たします。このポンプの助けによって水が心臓の方向へと汲み出されていくのです。しかし、寝たきりの方などでは、じっとしていると、足の動きが失われ、水を汲み出すポンプが機能しなくなるので、水が足にたまりやすくなります。
むくみの原因
足のむくみの原因は足の筋力低下以外に心臓、腎臓、甲状腺などの内臓が関係する場合や薬剤などが関係する場合もあり、原因検索のため、胸部レントゲンや採血や超音波検査などが必要となります。
- 心臓が原因・・・胸部レントゲンや心電図、採血での心不全データ(BNPやNT-pro BNP)の結果から判断します。むくみ以外に軽労作での息切れなどを主訴に来院される場合が多く、緊急対応を要するケースも多いため、注意が必要です。
- 腎臓が原因・・・糖尿病による腎障害が原因となる事が多く、採血での腎臓のデータ(クレアチニン値)、糖尿病の状態やたんぱくの値、また、尿検査における尿蛋白などで判断します。
- 甲状腺が原因・・・甲状腺の働きが低下するとむくみが出現します。一般的なむくみは皮膚を押すと引っ込むむくみが多いですが、甲状腺機能低下症の場合は、皮膚を押しても引っ込まないむくみが特徴です。
- 貧血や低栄養が原因・・・上記で説明した低たんぱくなどの影響で、血管外へ水分が出ていくために起こります。
- 運動不足・・・上記で説明したメカニズムでむくみが起こります。
- 薬剤が原因・・・日常の臨床現場では意外に多いむくみの原因です。原因不明の場合も多いむくみですが、特に降圧剤の一つで、血管拡張作用のあるアムロジピンなどの『カルシウム拮抗薬』の内服が原因となる場合が非常に多いです。治療は投薬中止にてむくみは劇的に改善します。また、糖尿病薬の一つであるピオグリタゾンも原因として有名です。
- 静脈の血栓や静脈瘤が原因・・・ほとんどの足のむくみは両側ですが、片側の足のむくみに限局される場合は、血栓の関与を疑います。特に足に痛みや熱を伴う場合は、血栓が原因で炎症を起こす、血栓性静脈炎や足の脂肪組織の炎症を起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)などがあります。採血にて炎症データのCRPや線溶系マーカー(いわゆる血栓マーカー)のDダイマーが高値、また、下肢静脈エコー検査などで判断します。また、足の静脈に瘤(こぶ)が出来る下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)もむくみの原因となります。
最後に
足のむくみの原因は多種多様で、まず、原因の検索が必要になります。食事は減塩が基本となり、心臓や腎臓が原因の場合は、治療として利尿剤などのむくみを改善する薬を処方します。ただ、いつからむくみがあるか、片足か両足のむくみかの情報も重要です。安易に利尿剤などを投与するとむくみが改善せず、逆に血管内脱水になり、血圧低下や採血での電解質異常を起こします。むくみでお悩みの方は、まずは、お近くのかかりつけの先生にご相談ください。