クリニックレター
2024.05.15
クリニックレターvol.91「アルコール依存症について」
依存症は、日常生活や心身の健康、大切な人間関係に問題が起こっているにもかかわらず、依存しているものや行動がコントロールできなくなる病気です。今回はそんな中でも潜在患者が実は100万ほどいると言われている「アルコール依存症」について触れてみたいと思います。厚生労働省では2024年2月に「健康に配慮した飲酒ガイドライン」を公表しています。過度のアルコール摂取が健康に悪影響を与えることへの関心が高まっていることが示唆されています。
アルコール依存症とは
一言でわかりやすく言うと、アルコール依存症とは「お酒の飲み方(飲む量、飲むタイミング、飲む状況)を自分でコントロールできなくなった状態」です。飲みすぎることは良くないと理解していても、脳がブレーキを踏めなくなって「ほどほどでやめれない」怖い病気です。
厚生労働省の2015年の科学研究によると、アルコール依存症の疑いのある患者さんは国内で100万人※はいるという発表がなされていますが、実際治療を受けているのは10万人(約1/10)であると言われています。日本人口のおよそ100人に1人が当てはまる病気ですが、この病気はいまだに多くの誤解と偏見に包まれている疾患です。
※出典) 厚生労働科学研究「WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究2013~2015年度」より
イラスト「いらすとや」より
アルコール依存症になると
アルコール依存症は、身体、仕事、家庭などへ悪影響をもたらします。長年の飲酒の結果として生じてきた「飲酒コントロール障害」が起こります。脳内の「アルコールに対するブレーキ」がひとたび酒を飲みだすと「ほどほどでやめる」ということができなくなります。
- 酔いがさめると、次のような離脱症状(禁断症状)が出る
手のふるえ、多量の発汗、脈が早くなる、高血圧、吐き気、嘔吐、下痢、イライラ、不安感、うつ状態、幻聴、幻覚 - 離脱症状を抑えるために飲んでしまう
上記のように酔い潰れるまで飲んでしまい、また目が覚めると禁断症状のためにまたアルコールを求める(連続飲酒)ようになってしまい、他の事より飲酒を優先してしまいます。そうなると自身の身体症状はもちろんのこと、社会生活や家庭生活もうまくいかなくなります。それがお酒のせいであるとわかっていても、やめられなくなってしまう病気と言われています。
アルコール依存症の危険因子とは
厚生労働省では下記のように定義しています。
- 女性の方が男性より短い期間で依存症になる
- 未成年から飲酒を始めるとより依存症になりやすい
- 遺伝や家庭環境が危険性を高める
- 家族や友人のお酒に対する態度や地域の環境も未成年者の飲酒問題の原因
- うつ病や不安障害などの精神疾患も依存症の危険性を高める
ただし、これらに当てはまらない場合でも習慣的に多量に飲酒をすることで誰でもアルコール依存症になる可能性があります。医学的に「依存症になりやすい性格」はありません。飲酒をコントロールできないのは、意志が弱いからではなく病気の症状。また、酒が切れると離脱症状(禁断症状)が出てくるので、それが辛くて飲むことを繰り返してしまいます。
アルコール依存症の治療法とは
専門の医師による診断が必要と言われています。大阪市HPでも、相談窓口一覧を掲載しております。
■大阪市アルコール依存症相談窓口
大阪市:アルコール依存症問題についての相談窓口等 (...>健康・医療>こころの健康に関すること) (osaka.lg.jp)
アルコール依存症は進行性の病気のため、完治はしませんが進行を止めて回復はできる病気です。病気と正しく付き合うことが大事と言われています。
アルコール依存症の患者さんのご家族様へ
アルコール依存症は否認の病気とも言われています。依存症のご本人だけでなくその家族までが病気であることをなかなか認めることができないと言われています。
家族、友人として|アルコール依存症|病名から知る|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
ご本人と共にご家族の方も行政機関や専門の医療従事者、自助グループなど外部の力を借りることで家族が楽になり、本人の治療意欲も高まると言われています。
最後に
アルコール依存症は、それ自体の根治は望めませんが、専門医療機関で適切な治療を受けることで、回復が見込める病気です。当クリニックでも応援している『えんとつ町のプペル』の作者である西野亮廣(にしのあきひろ)さんも依存症についてコマ撮り短編映画『ボトルジョージ』という作品に携わっています。依存症はまだまだ認知されていない病気ではありますが、少しでも理解を深めるきっかけがあればと考えます。
#ボトルジョージ
#依存症