クリニックレター106: ヒートショックにご注意を!!  ―冬場の入浴事故を防ぐために―

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2025.01.16

クリニックレター106: ヒートショックにご注意を!!  ―冬場の入浴事故を防ぐために―

ヒートショックとは?

皆さん、ヒートショックという言葉をご存知でしょうか?昨年12月、「ミポリン」こと歌手で俳優の中山美穂さんが亡くなりました。浴槽内で座った状態で倒れていたことから、急激な温度変化が体に悪影響を与えるヒートショックで亡くなった可能性が指摘されています。
ヒートショックという言葉は医学的な診断名ではなく、和製英語です。欧米ではこのような状態を表す際にこの用語は使われませんが、日本では一般的に広く使用され、医療関係者にも認知されています。
日本医師会はヒートショックを「急激な温度の変化で身体がダメージを受けること」と定義しています。また、三省堂国語辞典第七版では「暖かい部屋から寒い部屋への移動など、温度の急な変化が体に与えるショック」と記載されています。

ヒートショックは、急激な温度変化により身体に以下の影響を与える状態を指します。

急激な温度変化による血圧の大きな変動

暖かい部屋から寒い浴室に移動するといった状況で、血管が急激に収縮や拡張を繰り返し、血圧が大きく変動します。

血圧の変動による心臓や血管への負担

高齢者や心血管疾患を抱える方には特に大きなリスクとなります。

重大な疾患のリスク増加

血圧の急変により、脳梗塞、心筋梗塞、脳出血といった深刻な病気のリスクが高まります。

このように、ヒートショックは複合的な生理反応を簡潔に表現するための用語として用いられています。医療専門家も一般向けの注意喚起の際に、この用語を活用しています。

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なぜ、冬に高齢者の入浴事故が多くなるの?

厚生労働省の統計によると、2021年の1年間で浴槽での不慮の溺死・溺水による死亡者数は4,750人に上り、交通事故による死亡者数2,150人の実に2倍以上でした。消費者庁のデータでは、高齢者の入浴中の事故は11月から4月に多く発生し、特に1月がピークとなっています。この冬場の入浴事故には特別な注意が必要です。
特に血圧が高い方は、リスクがさらに高まります。収縮期血圧(上の血圧)が160mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が100mmHg以上の高齢者では、入浴中の事故や体調不良のリスクが高いという研究結果も報告されています。

入浴事故が多発する原因

冬に高齢者の入浴事故が増える主な原因の一つは、急な温度差による血圧の急激な変化です。

温度差による血圧の変動

暖房の効いた暖かい部屋から、冷え込んだ脱衣所に移動して衣服を脱ぎ、さらに寒い浴室に入ると血管が縮まり、血圧が急上昇します。その後、浴槽で体が温まると血管が広がり、急上昇した血圧が急激に低下します。このような急激な変化は、体に大きな負担を与えます。

血圧低下による意識障害

急激な血圧変動により脳内の血流が一時的に不足し、意識障害を引き起こすことがあります。これが浴槽内での溺死事故の一因とされています。

高齢者の血圧調整機能の低下

3.65歳以上の高齢者は血圧を正常に保つ機能が衰えていることが多く、寒暖差への適応が難しくなります。また、血圧が不安定な方や、過去に入浴中のめまいや立ちくらみを経験したことがある方も特に注意が必要です。

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各イラストは政府広報オンラインより

ヒートショックが起きやすい人と要因

  • 高齢者
  • 高血圧や心筋症などの基礎病を持つ方
  • 風呂場所の温度詰り差が大きい場合

ヒートショックを防ぐ具体的な対策は?

浴室や脱衣所を暖める

脱衣所や浴室に暖房器具を設置し、温度差を小さくする

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適切な湯温と短時間の入浴

長湯は避け、30分以内を目安にする。例えば、42度のお湯で10分入浴すると、体温が38度近くに達し、高体温などによる意識障害を起こす危険が高まります。お湯の温度は41度以下にし、お湯につかる時間は10分までを目安にし、長時間の入浴は避けましょう。
お湯の温度は38~40℃程度が理想。熱いお湯は避ける。

入浴前の準備

かけ湯で体を慣らし、急激な血圧変動を防ぐ

家族に声かけ

入浴前に家族へ知らせ、定期的に様子を確認してもらう

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食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避ける

特に、高齢者は、食後に血圧が下がりすぎる食後低血圧によって失神することがあるため、食後すぐの入浴は避けましょう。飲酒によっても一時的に血圧が下がります。飲酒後はアルコールが抜けるまでは入浴しないようにしましょう。また、体調の悪いときや、精神安定剤、睡眠薬などの服用後も入浴は避けましょう。

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浴槽から急に立ち上がらない

入浴中には体に水圧がかかっています。その状態から急に立ち上がると体にかかっていた水圧がなくなり、圧迫されていた血管が一気に拡張し、脳に行く血液が減ることで脳が貧血のような状態になり、意識を失ってしまうことがあります。浴槽から立ち上がった時に、めまいや立ちくらみを起こしたことがあるかたは要注意です。浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりなどを使ってゆっくり立ち上がるようにしましょう。

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最後に

もちろん、高齢者だけでなく、40代~50代でもどの世代にもヒートショックは起こり得ます。特に血圧が高い、コレステロールが高い、糖尿病でも治療をしていないなど、動脈硬化の危険を抱える方に起こりやすいです。特に持病がある方や生活習慣病が気になる方は、自分に合った安全対策を心がけましょう。家族や身近な方と一緒に対策を実践し、この冬を安心してお過ごしください。

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