クリニックレター
2025.02.17
クリニックレターvol.108 「たばこと健康(前編::たばこの含有物質と人体への影響)」
近年、分煙化が進み、喫煙率は減少傾向にあるものの、現在でも多くの方が喫煙を続けています。令和5年の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、習慣的に喫煙している人の割合は全国で 15.7%、男性 25.6%、女性 6.9%と報告されており、この 10 年間で男女ともに有意に減少しています。しかし、年齢階級別にみると、40~50 歳代男性では依然として 3 割を超える喫煙率が続いているのが現状です。
喫煙は、自身の健康を著しく損なうだけでなく、周囲の方々にも悪影響を及ぼすことが知られています。また、喫煙には依存性があり、禁煙が容易でない側面もあります。しかし、禁煙することで健康を取り戻すことができるのも事実です。
タバコが健康に悪影響を及ぼすことは、多くの人が知っているでしょう。今回は、あえてこのテーマを取り上げ、喫煙がどのように人体に影響を及ぼすのかを詳しく解説したいと思います。前編では、一般的な紙巻きたばこに焦点を当て、その成分や健康リスクについて説明します。
喫煙のリスクについて
喫煙の健康リスクに関する科学的根拠は、国内外の多くの研究によって証明されています。下図は、日本人における喫煙者本人への影響(能動喫煙)について、「科学的証拠が因果関係を推定するのに十分である(レベル1)」とされている疾患を示したものです。喫煙がどのような疾患のリスクを高めるのか、具体的なデータを基に説明していきます。
厚生労働省サイトより引用
上記のうち、肺がんは喫煙との関連性が非常に強く、喫煙者の死亡原因の第1位となっています。ここで注目していただきたいのは、喫煙はがんの原因になるだけでなく、脳卒中や心臓病などの血管の病気、呼吸器の病気、糖尿病などの生活習慣病、歯周病など、様々な病気の原因になります。これらの病気は、初期には自覚症状がないことも多く、気付いたときには進行していることがあります。
なぜたばこはリスクがあるのか
たばこの煙には、4,000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち約70種類が発がん性物質であると厚生労働省は発表しています。喫煙により、これらの有害物質が肺や気管に直接触れ、慢性的な炎症を引き起こします。この炎症が長期間続くことで、さまざまな疾患の原因となります。特に、以下の三大有害物質が健康に及ぼす影響は重大です。
① ニコチン
- 血管を収縮させ、血流を悪化させる。
- 動脈硬化や高血圧の要因となり、脳卒中や心臓病のリスクを高める。
- 中枢神経を刺激し、強い依存性を引き起こす。
② タール
- いわゆる「ヤニ」として歯や衣服、室内を汚す。
- 多くの発がん性物質を含み、肺がんや喉頭がんなどのリスクを高める。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な原因の一つとなる。
③ 一酸化炭素
- 血液中の酸素を運ぶヘモグロビンと結合し、体内の酸素不足を引き起こす。
- 動脈硬化を促進し、心臓病のリスクを高める。
特にニコチンは、強い依存性を持つことで知られています。喫煙を続けることで「ニコチン依存症」となり、禁煙を試みる際にはイライラや不安感などの離脱症状が現れることがあります。そのため、WHO(世界保健機関)もニコチン依存症を正式な疾患として認定しています。
喫煙していると周囲への影響はあるの?
たばこを吸わない人が、周りの人が吸うたばこの煙を吸ってしまうことを「受動喫煙」と言います。厚生労働省のデータによると、年間約1万5千人もの人が受動喫煙で亡くなっているという発表がされています。死因は肺がん、心疾患、脳卒中、赤ちゃんの突然死といった、命に関わる病気との関係が強く指摘されています。たばこの煙の到達距離は直径14mの円周内(約95畳)と広い範囲に及びます。小さなお子さんや妊婦さんがいるご家庭では、禁煙を真剣に考えることが大切であると考えます。
最後に
今回のレターでは、喫煙の健康リスクについて解説しました。
喫煙は、健康寿命を縮める原因の一つです。今後の研究や調査結果を注視し、喫煙のリスクについて常に最新の情報を把握するようにしましょう。次回、後編では、アイコスなどの加熱式たばこ、電子たばこ、水たばこ(シーシャ)などの新しい喫煙製品について取り上げ、それらが従来のたばことどのように異なるのか、また、加熱式たばこや電子たばこが本当に「害が少ない」のか、従来のたばことの違いは何かについて解説します。